AGAのほかに脱毛症状が見られる病気があります。中でも円形脱毛症は、症状・原因・発症メカニズムが、AGAとは大きく異なります。治療方法や使用する薬にも違いがでるため、誤った方法で治療を進めてしまうと、症状の改善が見込めません。
本記事では、AGAと円形脱毛症の違いを比較し、適切なクリニックや治療方法まで解説します。ご自身の脱毛症状がAGAと円形脱毛症のどちらに当てはまるのかとお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
AGAと円形脱毛症の違いを比較
まずはAGAと円形脱毛症の違いを比較していきましょう。それぞれの特徴を、以下の表に簡潔にまとめました。
AGA | 円形脱毛症 | |
---|---|---|
原因 | 遺伝と男性ホルモンの乱れ | 不明(自己免疫疾患が有力) |
主な症状 | ・抜け毛・薄毛 | ・円や楕円形に脱毛 |
発症箇所 | ・前頭部(生え際)・頭頂部 | ・頭部・全身 |
発症する人 | 思春期以降の男性 | 性別や年齢に関わらず誰でも |
上記の表からもわかるように、原因や症状・発症箇所・発症する人に至るまで、AGAと円形脱毛症はまったく異なる脱毛症状です。そのため、治療方法や有効な成分などにも違いが出ます。
さらにくわしく、メカニズム・原因・症状と発症箇所について見ていきましょう。
AGAとは?
AGAとは、男性型脱毛症(男性ホルモン型脱毛症)のことです。男性ホルモンが頭皮・毛髪にとって悪影響となり、薄毛を引き起こす進行性の脱毛症となっています。
- AGAの原因とメカニズム
- AGAの症状と発症箇所・発症する人
これらについて、解説します。
AGAの原因とメカニズム
AGAの原因は、遺伝的要素である男性ホルモン「ジヒドロテストステロン(DHT)」とホルモンの乱れだといわれています。
AGAが発症するメカニズムをまとめると、以下のとおりです。
- 「テストステロン(男性ホルモン)」が生え際・頭頂部に存在する物質「5αリダクターゼ(酵素)」と結合
- 「ジヒドロテストステロン(DHT)」という男性ホルモンに変化
- 「男性ホルモンレセプター」という毛根組織がジヒドロテストステロン(DHT)を吸収
- 脱毛因子となる「TGF-β」が発生
そもそも髪の毛は、成長期→退行期→休止期→脱毛というヘアサイクルで生え変わり続けています。
通常のヘアサイクルでは成長期は2~6年です。これに対し、AGAでは脱毛因子TGF-βが悪影響を及ぼすことにより、成長期が数か月~1年という短さになります。
AGAは成長期が短いため生えてくる毛髪が細く弱々しくなる細く弱々しい毛が増えるうえ、毛が抜けるまでのスパンも短くなることで脱毛症状から薄毛につながるのです。
AGAの症状と発症箇所・発症する人
AGAは、毛が細くなる・細くなった毛が抜けて髪が薄くなるのが主な症状です。発症箇所はおでこの生え際や頭頂部となっています。
メカニズムで解説したとおり、AGAの原因物質は前頭部である生え際付近・頭頂部で発生します。そのため、以下に記載する進行パターンを辿るのが特徴です。
【AGAの進行パターン】
- 前頭部の生え際から薄くなり始める
- 徐々に頭頂部が薄くなり始める
- 前頭部と頭頂部の頭皮が目立ち始める
- 生え際から頭頂部の頭皮部分がつながる
- 頭頂部より後ろ側の頭皮も露出する
思春期以降の男性が発症する脱毛症であり、各年代の発症率は以下のとおりに推移しています。
発症率 | |
---|---|
20代 | 約10% |
30代 | 約20% |
40代 | 約30% |
50代以降 | 約40数% |
(参考:日本皮膚科学会|男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版)
AGAは進行性であるため、治療し続けないと症状が進行する脱毛症です。そのことから、年代が上がるにつれて、少しずつ抜け毛を自覚する人が多くなると考えられます。
円形脱毛症とは?
円形脱毛症とは、名前に“円形”とつけられているとおり、丸い形や楕円の形で毛が抜けてしまう脱毛症のことです。
- 円形脱毛症の原因とメカニズム
- 円形脱毛症の症状と発症箇所・発症する人
これらについて、詳しく解説します。
円形脱毛症の原因とメカニズム
円形脱毛症の原因は、現代の医学では明確にわかっていません。一説では、過度な自己免疫反応により脱毛が起こる「自己免疫疾患」が有力だとされています。
自己免疫疾患は、免疫機能が正常に働かなくなり、自身の身体を攻撃してしまう病気です。原因を自己免疫反応だと仮定した際の円形脱毛症が起こるメカニズムは、以下のとおりとなります。
- 「毛根」を異物だと勘違いし免疫細胞が攻撃する
- 毛根に炎症が起きる
- 髪が抜ける
強い自己免疫反応は、遺伝をはじめさまざまな事象が原因になり得るのではないかといわれています。しかし、円形脱毛症と同様、自己免疫反応の明確な原因は、現代の医学ではわかっていません。
円形脱毛症の症状と発症箇所・発症する人
円形脱毛症は、円や楕円の形で髪が抜けるのが主な症状です。頭部をはじめとして身体のどの部分でも起こる可能性があります。
円や楕円での脱毛が主な症状として見られますが、1か所のみが脱毛するだけではありません。以下のような状態も、円形脱毛症の症状です。
- 1か所が円または楕円型に脱毛する(単発性通常型)
- 円または楕円型の脱毛が複数発生する(多発性通常型)
- 生え際が帯状に脱毛する(蛇行型)
- 頭の毛がすべて抜ける(全頭型)
- 脱毛がまゆ毛やまつ毛など含め全身に及ぶ(汎発型)
(参考:日本皮膚科学会|日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017年版)
性別や年齢に関係なく、誰でもが発症する可能性のある病気です。また、発症するのが一度だけの場合もあれば、何度も再発することもあります。
近年では、アトピー性疾患や内分泌疾患歴など、発症するのは遺伝とも関連するのではないかと考えられています。
AGAと円形脱毛症の治療方法
原因や発症のメカニズムが異なるAGAと円形脱毛症ですが、それぞれ治療方法も異なります。
- AGAの治療方法
- 円形脱毛症の治療方法
これらについて、以下にまとめました。
AGAの治療方法
AGAの治療方法はいくつかあります。AGA治療で用いられる方法をまとめると、以下のとおりです。
- 治療薬(内服・外用)
- 自毛植毛
- LEDおよび低出力レーザー
- 成長因子導入(メソセラピー)
中でも、一般的でありエビデンスに基づき高い効果が証明されているのは、内服・外用薬での治療です。AGAの予防・発毛といった治療方針に合わせて、服用・使用する成分は異なります。
日本皮膚科学会の「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017年版」では、エビデンスに基づき、AGA治療に使用を強く勧めるとされる“Aランク”を獲得している成分を、3つ紹介しています。
- フィナステリド(内服薬)
- デュタステリド(内服薬)
- ミノキシジル(外用薬)
頭髪の症状だけでなく、患者さま本人が「予防」「進行を止める」「発毛」の何を希望しているかにより、治療方針を決定しています。
円形脱毛症の治療方法
円形脱毛症は、年齢や脱毛症状により、どのように治療を進めていくかが変わります。円形脱毛症の治療に用いられる主な方法は、以下のとおりです。
- ステロイド(塗り薬・注射)
- 内服薬
- 光線治療(局所免疫療法)
日本皮膚科学会の「日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2017年版」では、治療に用いるよう強く勧めるとする、推奨度“Aランク”の方法はありません。しかし、治療を行うよう勧めるとされる“Bランク”の治療方法は、3つあります。
- ステロイド(局所注射療法)
- ステロイド(外用薬)
- 局所免疫療法
ステロイド注射は、広範囲の円形脱毛症では注射回数と総量をかなり多く必要とするため、ほかの方法も並行して検討すべきだと記されています。
また、アトピー性疾患や内分泌疾患歴がなく症状が見られてから1年以内の円形脱毛症の場合、80%ほどの患者さまは、1年以内に毛髪が回復していることも、研究により明らかになっています。
AGAや円形脱毛症が疑われる場合は何科に行けばよい?
AGAと円形脱毛症は、基本的に一般の皮膚科で相談が可能です。さらに、薄毛や髪の悩み専門のAGAクリニックなどでも、どちらの治療もできることが多くなっています。
一般皮膚科では、皮膚に関するどのような症状でも相談できるのが特徴です。AGAや円形脱毛症だけでなく「脂漏性(しろうせい)脱毛症」や「粃糠性(ひこうせい)脱毛症」など、脱毛を伴うほかの症状だった場合にもスムーズに治療が進められるでしょう。
ただし、AGAの治療に用いられる「メソセラピー」「LED照射機器」「自毛植毛の施術」などは、取り扱っていないことが多くあります。治療の選択肢は、薄毛専門クリニックに比べて少ない場合もあるでしょう。
薄毛やAGA専門クリニックでは、取り扱っている内服薬や外用薬の種類が豊富なだけでなく、発毛に対するアプローチもできるのが特徴です。
ただし円形脱毛症の場合、根本的な原因だと考えられるものの内容によっては、専門機関の受診を促される場合があるでしょう。
まとめ
AGAと円形脱毛症は、原因やメカニズム・治療方法など、内容が大きく異なります。症状の進行の仕方に違いがあるため、自身がどちらの症状である可能性が高いのかも判断しやすいでしょう。
しかし、AGAと円形脱毛症を同時に発症しているという患者さまも、少なくありません。自身で判断しセルフケアをするのでは、症状の進行が止められない可能性も考えられます。
AGA・円形脱毛症のどちらも、多くの一般皮膚科や薄毛専門クリニックなどで診察が可能です。
症状が進行してしまう前に、まずは医師へ相談し、これからどのように治療を進めていくかを決めていきましょう。
記事監修者
JSKINクリニック医師 牧野潤
慶應義塾大学医学部卒業。形成外科医。シンガポール国立大学病院留学。医師免許取得後、株式会社ボストンコンサルティンググループにてヘルスケア・IT領域で従事。
慶應義塾大学病院、埼玉医科大学総合医療センター等勤務を経て、現在は慶應義塾大学医学部 特任助教。
大学病院での臨床・研究と並行し、レーザー・注入施術などの美容医療に特化した「JSKINクリニック」を2021年より経営・監修。